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 私には弟が居る。 正確には、双子の弟、だが。
 異性の双子なのだから、外見はそんなに似ていない。
 私はどちらかと言うと、お父さんに似て真っ黒なストレートな髪なのに対して、あいつは母親似の茶髪に天パ。
 だもんで、私たちが双子、と言っても誰も信じてはくれない。 唯一私が姉だというと、納得される。
 まぁ、私としてもあんな軽い男と一緒にされても、嫌なんだけど。
 なんて考えながらパソコンのキーボードを適当に叩いていると、玄関の開く音がした。
 両親はもうとっくの前に寝室に行った。 能天気な彼らは息子が無断外泊を繰り返しているにもかかわらず、まあそういう年頃なんだろう、で片付けてしまっている。
 だからしょうがなく毎夜私が待っているのだ。 帰ってくる日もあれば、帰らない日もある。 なんだかこれでは亭主を待つ妻のような立場だ。

「おかえりなさい」

 玄関で靴を脱いでいる弟の後ろに立ち、とげとげしい口調で言う。 弟は私を一瞥すると、すぐに手元に視線を戻す。

「何? まだ起きてたの?」

 私のと、負けじ劣らずの冷たい声だ。

「あんたねぇ、何時だと思ってんのよ!外泊するなら週末にしときなさいよ!明日だって学校があるのよ」
「じゃあ、待たなきゃいーだろ」
「ちょっと!」

 私の話を聞かずに、このバカは着ていたジャケットを脱ぎ階段に投げ捨てると、洗面所へと入っていく。
 話を聞いた試しは、ない。
 閉ざされた扉に触れながら、私は自嘲してみせる。
 髪の色も違うなら、性格もこんなに違う。まじめな私にバカなあいつ。こんなのと血が繋がってる時点で何かがおかしい。
 そうだ、おかしい。 血が繋がってるなんて、おかしい!

「ちょっと!」
「うるせえな!」

  扉を殴るように叩くと、怒鳴り声と一緒に扉が開く。 顔を洗っていたのか、タオルで顔を抑えている。 濡れてしまった前髪も乱暴に拭っている。

「大声出さないでよ、母さんたち寝てるのよ」
「わーってる。 ……お前もさっさと寝ろよ」
「あんたが早く帰ってくればいいのよ! どこ、行ってたの?」
「関係ねえだろ」
「関係なくない。 家族じゃない」
「家族、ねえ」

 弟は何がおかしいのか皮肉げに笑う。

「出てけよ、シャワー浴びる」
「そう……私も一緒にお風呂はいろっかな」
「バカ言うな」

 そう言いながらT-シャツを脱ぎ裸になった弟の背中に、私は手を伸ばす。 厚い肌からぬくもりが感じられる。

「おい」

 咎めるように発せられた弟の声は、若干低い。 どこか緊張を伴った声に、私は大声で笑いたくなった。
 本当は、知っている。 どうして、遅くまで家に帰ってこないのか。 どうして、家に帰りたくないのか。
 弟の咎めの声を無視すると、そのまま背中に口付ける。 噛み付きたい衝動に駆られたが、舌で舐めておくに留めておいた。
 塩からい汗の味がする。

「やめろ!」
「あんたから、始めたんじゃない」

 その言葉に弟の背中が揺れる。 硬直した体をいい事に、私は手を伸ばすと弟を後ろから抱きすくめる。
 若干弟の方が背は高い。 顔を寄せれば知らない香水の匂いがした。

「……あんたから、始めたんじゃない」

 もう一度同じ言葉を言う。 弟はもう抵抗しない。 私の腕をゆっくりと外すと、こちらに向きなおす。
 怒りややるせなさが入り混じった表情をしている。 いつも飄々としている弟にこんな表情をさせただけでも、気分が良かった。

「もう止めよう」
「何を?」

 言いながら、私は弟のわき腹に手を這わせ、そのままゆっくりと上へと移動する。 眉を寄せながら、弟はその手を止める。

「俺達は、双子なんだ」
「だから、何?」
「血が繋がってるんだぞ」
「でも、セックスはできるわ」

 あんたはバカね、と言いながら私は笑う。 今更モラルを気にした所で、なんなのだろうか。
 背伸びをして、弟の薄い唇に触れる。 幾度とな触れた唇。 薄く開いた唇から舌を這わせれば、戸惑いながら受け止められる。
 諦めたように、弟の腕が私に伸び、シャツのボタンを外し始めた。 お返しに、ベルトを外してついでにズボンのボタンも外してやる。

「長くは続かない、こんな事」
「それでも、いいの」
「……風呂、入ろう」
「そうね」

 ズボンと下着を脱ぎ、さっさと浴室に入った弟の背中を見ながら、衣類を脱ぐ。 ああ、そういえばお風呂場では二回目だ、なんて思う。
 私達は、家のあらゆる場所で睦み合った、学校でも、外でも。 遅かれ早かれ、私達の関係は露見するだろう。 その時、何が起こるのか、私は知らない。

 ねえ、本当は知っているのよ。
 あれはあんたの戯れのキスだったって。 でも、だからなんなの?
 あんたは私がひた隠しにしていた秘密を暴いたの。 唇が触れた瞬間、もう始まっていたのよ。
 今更、あんた一人が逃げるなんて、許さない。 私達は、糾弾され抹消される時も同じでなくてはいけない。 生まれてきたときのように。
26th/Feb/10

 

 

 

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