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案内された部屋は白を基調とした落ち着いた部屋だった。 フィレンツィアの自室と比べれば豪勢なものだが、家具は必要最低限なものしかおいていない為か、どこか殺風景で生活味がない。
おもわずきょろきょろと周りを見渡す。 アレキサンダーの物であろう上着が無造作に椅子の上にかけてある。 ここは彼の自室なのだ。 そう思うとティアイエルの体に一気に緊張が走る。
(そうだわ……私……結婚したんだもの)
そう思った瞬間、体が宙に浮く。 足が宙に浮き、小さく悲鳴をあげると大きなベッドの上に横たえられる。 軽々とティアイエルを抱き上げベッドまで移動させた張本人は、冷たい笑みを浮かべると、ベッドの端に座る。
ぎしりとベッドが軋み、半分覆いかぶさるように、ティアイエルの顔を見下ろす。
「何を、なさいますの」
「夫婦になった夜にする事など、王族も庶民も違わないだろう?」
「あ……」
思わずティアイエルは手を後ろに這わせ、ベッドの隅まで逃げようとする。
頭ではそんな事をしても無駄だという事はわかっているが、恐怖心の方が勝ってしまう。
「私……私……」
アレキサンダーは冷たい瞳でティアイエルの一挙一動を見ている。 責められるような瞳に、思わず視線を逸らす。
泣き出しそうになるのを抑えると、じりじりとアレキサンダーの方へと寄る。
国を守ると決めてこの場にいるのだ、王位継承権があろうがなかろうが皇子には違いない。 ティアイエルの態度で、国の扱いが変わるのだから。
アレキサンダーの前までくると羞恥に顔が赤くなるのがわかり、俯く。
さきほどの同じようにアレキサンダーの手がティアイエルの頬に触れ、それから頤を掴み顔を上げさせる。
「私は子を為す気はない」
「え……」
「だから、お前にも触れない。 安心しろ」
そう言うとベッドから降り、服の襟を緩め、着替え始める。
いきなりの展開に頭がついていかず、ぼんやりとティアイエルはアレキサンダーを見つめていた。
露になった均等に筋肉のついた体に息の呑む。 肩から腰まで、剣で一文字に斬られたような傷跡がある。 最近ついた傷というよりも、古い傷なのだろう。
ティアイエルの気配に気づいたアレキサンダーはすばやく服を着ると、驚いている彼の妻に向かい小さく笑う。
「あまり、見せたものではなかったな」
「……いえ……あの」
「何時までその格好でいる? 着替えに侍女は必要か?」
「いえ、自分でできます」
「そこのクローゼットに適当に貴女の服を用意している。 気に入らなければ新しく誂えばいい」
そう言われあけたクローゼットの中には色とりどりのドレスがかけられていた。 手に触れてみれば、いい素材を使っている事はすぐにわかった。 肌触りのいい寝巻きを手に取ると、クローゼットをしめる。
「これ……全部、私に、ですか?」
「貴女しか居ないだろう」
「いえ、あの……ありがとうございます」
「礼なら私ではなく、侍女達に言ってくれ。 彼女らが用意した」
「はい……あの、アレキサンダー様」
「なんだ?」
「……少し、あっち向いててもらえますか?」
目の前で着替えるのは恥ずかしいので、と言うとアレキサンダーは呆れたような表情になる。 それからベッドの中にもぐりこむと、ティアイエルに背を向けた。
「私はもう寝る……それと、私の事はアレクでいい」
「アレク様?」
「アレク、だ」
「……アレク」
「上出来だ」
「あ、あのっ……」
「なんだ?」
約束どうりティアイエルの方を振り向かずにいる彼に、今真っ赤になった顔を見られる心配はない。
「私の事は、ティアラとお呼びください」
「ティアラ、か……名前の響きも綺麗だな」
その言葉にますます顔が高潮する。 着替え終わりゆっくりとアレクの隣にすべりこむ。 大きすぎるベッドでは密着する心配もない。
アレクの視線は冷たいのに、その言葉や行動に優しさを見つめてしまい、困惑する。
王位継承権を持たない、皇子。
何が理由でそんな事態になったのか、何がアレクを継承権を返還させる気にしたのだろうか。
疑問が浮かびは、沈んでいく。 唯一答えてくれる男の静かな寝息が聞こえる。
(本当に、寝ているのかしら……)
そんな事を思いながら、ティアラ自身柔らかな眠りの世界に身を委ねた。
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